日本経済政策学会 第72回(2015年度)全国大会
大会テーマ
「現代の経済政策学と社会的公正」
大会趣意書
現代の経済政策学は現代経済学の論理の上に構築されており、その現代経済学の論理は近代経済学が展開してきた価格メカニズムの有効性を受容することによって成立している。そして、この価格メカニズムはその価値論において限界効用価値説の有効性にその論理の基礎を置いている。したがって、そこにおける政策的価値判断基準は限界効用学説の効用価値理論に基づいて行われる。この効用価値理論に基づけば、最も効用の高い部門や人材等に最も高い価値を置き、最も高い配分を行うことが正当であるとしている。その結果、ある場合には社会的公正という観点から見ると容認しがたい格差が必然的に生じ、そうした格差は社会的に見て容認すべき公正なものであるのかという論争を生み出している。
東西冷戦の終結以降の現代では、ほとんど全ての諸国の経済社会がグローバルに一体化された世界市場経済に移行している。国際的な自由貿易機構、世界的なバンキング・システムの統合化およびIT革命とネット社会、民主主義の実現が、これを可能にした主な要因であるが、そこでは近代社会の存立の基盤であった主権国家の領域が日増しに浸食され、国家主権の壁は常に引き下げられてきている。アメリカの債権国化とともに始まった国際的なリーダーシップの衰退によって様々な地域統合や経済連携の動きが加速したが、その中で所得格差や経済格差といった諸国家間の格差の問題が表面化し、国内的にも、あるいは世界的にも、格差問題は経済政策上において解決すべき課題としてますます浮き彫りにされてくるようになった。
経済政策における価値判断は、現代では、以上のような現代史的観点を梃子の力点として置かれなければならず、またそうしなければ「賢明な」価値判断に到達することはほとんどできそうにない。経済政策の価値判断の対象となる現代経済社会の作用点としての課題は幾つも存在する。それは,地球規模の環境破壊や自然災害、資源枯渇やエネルギー不足、人口の地域的アンバランスの進行、先進国と途上国の対立と協調、地域統合の進展と統合システムの不完全性、地球規模で一体化する市場経済と迷走するガバナンス等々のグローバルな問題から、ひとり一人の生活環境の改善や所得格差の是正、公平や平等への要求、適切な公共サービスの請求など国内的,地域的,個人的なレベルのものまで実に多様である。
これらの課題のいずれもが、グローバル経済時代が生み出した経済現象でもある。そして、こうした切迫した経済政策上の課題を解決するために、格差を是認し、それこそが改善・改革へのインセンティブである、とする、いわゆる市場経済システムの自動調整機能だけに委ねられていて良いものであるのかについて、改めて検討を加える必要があるであろう。